薄く焼き上げた生地と上品なこしあん
源氏巻の生地は、小麦粉、卵、砂糖などを混ぜ合わせ、薄くのばして丁寧に焼き上げます。表面がきつね色になるまで焼いた生地は、ほどよい香ばしさとしっとりした食感を備えています。
その生地で包むのは、甘さを控えめに仕上げたこしあんです。小豆をじっくりと煮て作るなめらかなあんの口どけと、生地のやさしい甘さが重なり、シンプルだからこそ素材の風味を楽しめる味わいとなっています。
細長い形のまま味わうのも、食べやすい大きさに切り分けて楽しむのもおすすめです。お茶と一緒にゆっくり味わえば、津和野らしい落ち着いた和菓子の魅力を感じられます。
江戸時代末期に生まれたと伝わる源氏巻
源氏巻の誕生は江戸時代末期とされ、津和野藩の御用菓子司によって考案されたと伝えられています。津和野藩十一代藩主・亀井茲監のもとに献上された菓子が、源氏巻の始まりとされる説があります。
その際、藩主の正室・貢子が菓子を見て、『源氏物語』の「若紫」に登場する和歌を思い浮かべたことから、「源氏巻」という名前が付けられたと伝えられています。
和菓子の名前に古典文学が結びついていることも、源氏巻ならではの興味深い魅力です。津和野の歴史だけでなく、日本の文学や美意識にも触れられる銘菓といえるでしょう。
「小判を包んだ菓子」というもう一つの伝承
源氏巻には、江戸時代の元禄期に津和野藩主が吉良上野介との関係改善のために贈った進物が起源だとする、別の説も伝えられています。この説では、小判を包むような形のお菓子が源氏巻の原型になったとされています。
ただし、この由来を裏付ける明確な史料は確認されておらず、現在では江戸時代末期に生まれたという説が有力とされています。伝承と史実が重なり合いながら、長い年月を経て現在まで語り継がれていることも、源氏巻の歴史的な面白さです。
津和野の菓子店それぞれに個性がある
現在の津和野町では、10軒以上の店舗が源氏巻を製造・販売しており、それぞれが独自の製法や味わいを受け継いでいます。同じ名前の銘菓でも、店舗によって生地の焼き加減やあんの風味などに個性があります。
伝統的なこしあんを使ったものに加え、近年では抹茶風味のあんや季節限定の商品など、新しい味わいも登場しています。さらに、衣をつけて揚げた「揚げ源氏巻」など、現代の好みに合わせたアレンジも楽しめます。
受け継がれる職人の技
源氏巻のおいしさを支えているのが、あんと生地を丁寧に仕上げる職人の技です。小豆をじっくり炊き上げて口どけのよいあんを作り、生地は焼き加減や厚みに細かな調整を加えながら仕上げられます。
明治時代から続く老舗などでは、長年受け継がれてきた技術を守りながら、現代の嗜好に合わせた商品づくりにも取り組んでいます。伝統を大切にしながら新しい味わいにも挑戦することで、源氏巻は現在も津和野の銘菓として親しまれています。
津和野散策のお土産に
源氏巻は、津和野を訪れた際のお土産にもぴったりの和菓子です。細長い独特の姿と、和の趣を感じさせる包装は、「山陰の小京都」と呼ばれる津和野の町の雰囲気にもよく似合います。
上品でやさしい甘さは幅広い世代に親しみやすく、日本茶と合わせて味わえば、旅先でのひと休みにもぴったりです。店舗ごとの違いを楽しみながら食べ比べてみるのも、津和野観光ならではの楽しみ方です。
津和野の歴史と文化を包み込む銘菓
源氏巻は、こしあんを薄い生地で包んだシンプルな和菓子でありながら、そこには津和野の歴史、古典文学、伝承、そして職人たちの技が凝縮されています。
江戸時代末期に生まれたとされる伝統を受け継ぎながら、現在ではさまざまな味わいや食べ方も生まれています。津和野の歴史ある町並みを歩いた後には、ぜひ昔ながらのやさしい甘さを味わいながら、津和野の文化に思いを馳せるひとときを楽しんでみたい銘菓です。