島根大学旧奥谷宿舎は、島根県松江市奥谷町に残る大正時代の洋風建築で、旧制松江高等学校の外国人教師向け官舎として1924年(大正13年)に建てられました。現在は国の登録有形文化財に指定され、歴史と文化を伝える貴重な建築遺産として親しまれています。
この建物は、近代日本の高等教育を支えた旧制松江高等学校に赴任した外国人教師のために築造された官舎です。当初は同一設計の官舎が2棟並んで建てられ、1号官舎はドイツ語教師用、2号官舎は英語教師用として使用されていました。しかし、1937年(昭和12年)に2号官舎は火災で焼失し、現在残るのは1号官舎のみとなっています。
旧奥谷宿舎は、木造2階建ての洋館で、大正時代に流行した急勾配の三角屋根を持つ外観が特徴です。2階部分が張り出し、その荷重を玄関ポーチの柱で支える構造は、当時の洋風住宅ならではの意匠といえます。
外壁は1階が木製の横板張り、2階がセメントモルタルの投げ付け塗り仕上げとなっており、素材の違いが生み出す表情のコントラストも見どころです。建物の四周には2連窓や3連窓が配され、室内に十分な光を取り込む工夫がなされています。
内部は時代に応じて改装が行われてきましたが、1階北東側の部屋には、建築当初の漆喰塗りの天井や壁が良好な状態で残されています。また、階段手すりにはアールデコ調の彫刻が施されており、大正モダンの美意識を今に伝えています。
戦前、この宿舎には日本の近代文化や教育に大きな影響を与えた外国人学者たちが暮らしました。「著作権の父」として知られるウィルヘルム・プラーゲ博士、第二の小泉八雲とも称され、多くの日本人に親しまれたフリッツ・カルシュ博士、さらにドイツ東洋文化研究協会会長を務めたハンス・シュワルベ博士など、国際交流の最前線を担った人物たちが名を連ねます。
第二次世界大戦後は島根大学に引き継がれ、ドイツ系アメリカ人で島根県の英語教育に尽力したバーソルド・アロンスタイン博士らが居住しました。ここは単なる住居ではなく、日本と世界を結ぶ知の交流拠点でもあったのです。
戦後は宿泊施設や大学教職員宿舎として利用されてきましたが、2007年(平成19年)に国の登録有形文化財に登録されました。その後、2009年(平成21年)には建造当初の姿に近づける修復が行われ、現在は島根大学総合博物館のサテライト施設として公開されています。
展示や催し物が行われるほか、親しみやすい外観から、地元の子どもたちの間では「松江のトトロの家」という愛称でも親しまれています。
原則として土・日曜日、国民の祝日・振替休日
10時~17時
〒690-0872 島根県松江市奥谷町140
JR松江駅から市営バス「大学・川津方面行き」で約15分、「北堀町」下車、徒歩約5分
旧奥谷宿舎の周辺には、国宝・松江城をはじめ、小泉八雲旧居や記念館、塩見縄手、武家屋敷、明々庵、田部美術館など、松江を代表する歴史・文化スポットが集まっています。
大正ロマンを感じさせるこの洋館を訪れたあとは、城下町をゆっくりと歩きながら、松江が育んできた国際文化交流の歴史に思いをはせてみてはいかがでしょうか。