中海は、島根県松江市・安来市と鳥取県米子市・境港市にまたがる、日本で5番目に大きな湖です。面積は約86~92平方キロメートル、湖周は約83キロメートルに及び、山陰地方を代表する雄大な水辺空間を形成しています。
中海は、日本海に開いた湾の入り口が砂州によって閉ざされてできた潟湖(せきこ)です。東側は境水道を通じて日本海(美保湾)へ、西側は大橋川を通じて宍道湖へとつながっており、斐伊川水系の一部を構成しています。宍道湖と中海は日本では数少ない「連結汽水湖」であり、互いに影響を与えながら独自の自然環境を育んでいます。
中海は、細長く延びる弓ヶ浜半島と島根半島によって日本海と隔てられています。東南には安来市と米子市、東北には境港市と美保関地区、西側には松江市が位置し、湖は両県の暮らしと深く結びついています。
湖内には、松江市八束町に属する大根島や江島、安来市に属する亀島などの島々が点在しています。特に大根島は火山活動によって形成された島で、薬用人参やボタンの栽培地として全国的に知られています。また、江島と境港市は江島大橋で結ばれ、独特の景観を生み出しています。
かつて中海の最大水深は17.1メートルとされていましたが、近年の再調査により18.4メートルに改定されました。最深部は過去の干拓事業に伴う工事で拡幅された場所と考えられています。
中海の平均塩分濃度は海水の約半分程度で、宍道湖よりも塩分が高いことが特徴です。このため、生息する魚介類や水生生物の種類にも違いが見られます。ヤマトシジミをはじめ、海水魚と淡水魚が同じ湖内で共存するという、汽水湖ならではの生態系が形成されています。
中海は、毎年約75,000羽以上のガン・カモ類が飛来する、日本最大級の渡り鳥の越冬地です。特にコハクチョウは1,000羽以上が渡来し、日本における集団越冬地の南限とされています。
ホシハジロ、キンクロハジロ、スズガモなどの水鳥は、世界全体の個体数の1%以上を支える重要な存在であり、中海は国際的にも高い価値を持つ湿地です。
1974年には国指定中海鳥獣保護区に指定され、2005年には宍道湖とともにラムサール条約湿地に登録されました。現在では約260種以上の鳥類が確認されており、その中には環境省レッドデータブック掲載種も含まれています。
さらに、甲殻類だけでも160種以上が記録されており、生物多様性の高さは国内有数といえるでしょう。
中海周辺では、米子水鳥公園や白鳥海岸がバードウォッチングの名所として親しまれています。冬にはコハクチョウの優雅な姿を間近に観察することができ、多くの自然愛好家や写真家が訪れます。
夏から秋にかけては、ウィンドサーフィンや水上スキー、釣りなどのレクリエーションも盛んです。また、中海や宍道湖を巡るクルージングでは、湖上から広がる山陰の景色をゆったりと楽しむことができます。
さらに、水陸両用機による遊覧飛行では、中海と日本海沿岸を上空から一望する特別な体験も可能です。
中海では古くから漁業が営まれてきました。1950年代にはアカガイ(サルボウ)を中心に高い漁獲量を誇りましたが、赤潮の発生などの影響により次第に減少しました。現在はスズキなどの魚類を中心に年間300~400トン程度の漁獲が続けられています。
また、安来港や米子港といった内陸港湾を擁し、地域経済を支える重要な役割も担っています。
約7000年前の縄文海進により形成された古中海湾は、弓ヶ浜砂州の発達と海面変動によって現在の姿へと変化しました。奈良時代には『出雲国風土記』に「飫宇の入海」と記され、古くから重要な水域として認識されていたことがわかります。
戦後には大規模な干拓・淡水化事業が進められましたが、環境保全の観点や社会情勢の変化により、2000年に干拓事業が中止、2002年には淡水化計画も中止されました。その後は施設の撤去が進められ、現在は環境再生と地域振興を目指す取り組みが行われています。
2003年の高潮では既往最高水位を記録し、米子市や松江市で浸水被害が発生しました。そのため現在では、ダム建設や放水路整備、大橋川改修など総合的な治水対策が進められています。
中海は、豊かな生態系と人々の営みが共存する特別な湖です。渡り鳥が舞う冬の静寂、夏の爽やかな湖風、歴史を物語る島々の景観。訪れる季節によって異なる表情を見せる中海は、観光・自然体験・歴史探訪のいずれにも適した魅力あふれる地域資源といえるでしょう。
宍道湖とともに山陰の風土を象徴する中海は、これからも自然と人との調和を大切にしながら、その豊かな環境を未来へと受け継いでいきます。