島根県 > 松江・玉造温泉 > 比婆山久米神社

比婆山久米神社

(ひばやま くめ じんじゃ)

神話と自然が息づく霊峰の古社

比婆山久米神社は、島根県安来市に位置する比婆山に鎮座する由緒ある神社で、古くから安産・子授けの神様として多くの参拝者に信仰されてきました。現在は神社庁への登録名として「熊野神社」とされていますが、古くからの呼び名として比婆山久米神社の名で広く知られています。

この神社は、日本最古の歴史書である「古事記」にも関わる神話の舞台とされる比婆山の山頂に奥宮があり、山麓には参拝しやすい里宮が設けられています。神話、歴史、自然が一体となった神聖な場所として、静かな人気を集める観光地でもあります。

日本神話ゆかりの霊峰・比婆山

比婆山は、日本神話において重要な役割を持つ山として知られています。古事記には、国生みの神として知られる伊邪那美命(イザナミノミコト)が亡くなった後、出雲国と伯耆国の境にある比婆山に葬られたと記されています。

このため比婆山は古くから伊邪那美命の御陵(みささぎ)と伝えられ、日本の母神が眠る神聖な地として崇められてきました。山頂にはその神を祀る久米神社奥宮があり、山全体が神域として扱われてきた歴史があります。

奥宮と里宮 ― 二つの社殿

山頂の奥宮

標高およそ320メートルの比婆山山頂付近には、久米神社の奥宮が鎮座しています。古くからこの山を守る神社として崇敬され、出雲国風土記や延喜式神名帳にも「久米社」「久米神社」として記録されている非常に古い神社です。

長い歴史の中で幾度も火災や戦乱により社殿が焼失しましたが、そのたびに再建され、現在の社殿は昭和15年に建立された権現造りの建物となっています。

奥宮の周辺には、伊邪那美命の御神陵と伝えられる古墳状の塚があり、古くから特別な場所として信仰されてきました。かつては禁足地として一般の立ち入りが制限されていたほど、神聖視されていた場所です。

山麓の里宮

山麓には参拝しやすい里宮(下の宮)があり、多くの参拝者はここで祈願を行います。里宮は江戸時代の寛文13年(1673年)に山麓へ移されましたが、昭和10年の大火により焼失しました。

現在の社殿は戦時中の昭和19年に再建されたもので、山陰地方では珍しい神明造りの建築様式となっています。奥宮まで登る時間や体力がない場合でも、里宮で参拝することで神様に祈りを捧げることができます。

安産・子授けの神としての信仰

主祭神である伊邪那美命は多くの神々を生み出した母神であり、その神格から子授け・安産・子育ての守護神として古くから信仰されてきました。

現在でも全国各地から安産祈願の参拝者が訪れ、特に女性や家族連れに人気の神社となっています。奥宮へ続く山道は約1kmほどの登り道となっていますが、古くから「この道を登る妊婦が弱音を吐くと難産になる」という言い伝えもあり、昔の女性たちは強い気持ちで参拝したと伝えられています。

比婆山に残る不思議な伝説

陰陽竹(いんようちく)

比婆山には全国的にも珍しい植物として知られる陰陽竹が自生しています。これは男竹のような茎に笹の葉が付く特殊な竹で、島根県の天然記念物に指定されています。

伝説では、伊邪那美命が出産の際に山へ登ったとき、手に持っていた杖を地面に突き立てたところ、そのまま根を張り竹になったと言われています。現在でもこの竹は学術的にも珍しい存在であり、比婆山ならではの自然遺産として大切に保護されています。

玉抱石

境内には「玉抱石(たまがかえいし)」と呼ばれる不思議な石があります。この石には丸い穴が空いており、古くから神秘的な力が宿る霊石とされています。

伝承によると、子宝に恵まれない人がこの石に触れて伊邪那美命に祈願すると、玉のように元気な子どもを授かり、安産になると伝えられています。そのため多くの参拝者が祈願に訪れる場所となっています。

ちんちん井戸

比婆山には「ちんちん井戸」と呼ばれる井戸も存在します。かつて水が湧き出る際に「ちんちん」という音が聞こえたことからこの名が付いたと伝えられています。

この井戸の水を産湯として使うと、その子は健康で元気に育つと言われてきました。現在は安全のため井戸は覆われていますが、古くから子育ての神秘と深く結びついた場所として語り継がれています。

自然が作り出した神秘の景観

比婆山は約130万年前の火山活動によって形成された山で、玄武岩が多く分布しています。特に麓では、岩が六角柱状に割れる自然現象である玄武岩柱状節理を見ることができ、その規模は国内でも有数とされています。

また、この山の岩盤は太古の地磁気を帯びているため、場所によっては方位磁石が正しい方向を示さないとも言われています。こうした自然現象も、古くから神秘的な山として信仰されてきた理由の一つと考えられています。

歴史の中で守られてきた信仰の山

比婆山は古代から豪族の崇敬を受け、戦国時代には尼子氏が深く信仰しました。尼子経久は山に社殿や施設を整備し、神領地を寄進するなど手厚く保護したと伝えられています。

また、この山は信仰の場であると同時に、戦国時代には富田城を支える重要な拠点でもあり、兵糧や武器の輸送路としても利用されました。こうした歴史を経て、現在の姿へと受け継がれています。

静かな観光地としての魅力

比婆山久米神社は島根県の東端に位置し、鳥取県に隣接する場所にあります。交通の便は決して良いとは言えませんが、その分自然と静寂に包まれた神聖な空間が保たれています。

山頂までの道はハイキングコースとして整備されており、展望地点からは安来市街を望むことができます。歴史・神話・自然が調和したこの場所は、まさに心を癒す隠れた観光スポットと言えるでしょう。

アクセス

・JR安来駅からバスで約40分
・山陰道 安来ICから伯太方面へ車で約25分

静かな山あいに佇む比婆山久米神社は、日本神話の世界に触れながら自然を感じることができる特別な場所です。神話の母神が眠ると伝えられる霊峰を訪れ、ゆっくりとした時間の中で祈りを捧げてみてはいかがでしょうか。

Information

名称
比婆山久米神社
(ひばやま くめ じんじゃ)

松江・玉造温泉

島根県